東北地方の南部に位置する福島県は、およそ200万人が住んでいる。面積はおよそ13,730㎢あり、全国で北海道、岩手県に続いて3番目に広い都道府県である。太平洋に面した、いわき市を含む浜通り、西部にある、会津若松市を含む会津、そして浜通りと会津に挟まれた、福島市や郡山市を含む中通りの3つの地方に分かれている。浜通りと中通りは阿武隈高地、中通りと会津は奥羽山脈によって分かれており、それによりそれぞれの地方で気候が大きく異なる。産業 としては農業が盛んで、りんご、桃、なしなどが有名。農業以外には水産業、林業、商業や工業が盛んである。
東日本大震災が起きたことにおいて、東北の中でも福島県が、地震や津波以外に打撃を受けたことで印象的なのはその翌日に起きた福島第一原子力発電所の事故で しょう。これによる放射能物質の流出で、浜通りの浪江町や双葉町を含む地域は次々に避難区域に指定され、その結果、仮設住宅での生活を余儀なくされる人が 今でもたくさんいる。特に農家の方々は、放射能による被害を独自の健康や、住まいの問題以外にもさまざまな影響が及んでいることは言うまでもなく、それらは私たちのインタビューからみてとれる。
このムービーは、私たち福島グループが聞いたお話たちのほんの一部にすぎません。
私たちの集めた農家さんの声はすべてこのアーカイブで閲覧できます。
希望アーカイブを通じ、より多くの人々が3.11を振り返り、考えるきっかけになればと願います。
TOPICS
風評被害
「福島の物は食べたくない。」「福島の野菜は放射能に汚染されているかもしれない。」特に日本人は、本音を言うことが少ないため、そういったことを直に農家の人々に言うケースはあまりありません。と同時に、日本は口コミも広がりやすいため、「福島のものは避けた方がいい」という噂も、瞬く間に広がってゆきます。このような社会ネットワークを通じて広がった噂の結果、各農家は深刻な売上げ減少に悩まされています。福島県から出荷された農作物はすべて検査され、政府の放射能の基準値を下回っているにも関わらず、です。取捨選択は個人の自由であり、誰もそれを咎めることはできません。しかし、もう一度冷静になり、安全性ではなく、味や美味しさで、福島県産の農作物を購入する時が、もう来ているのではないでしょうか。
城ノ戸 雄介
新規就農者
以前から後継者不足や第一次産業離れにより、農家の数は減少していました。東日本大震災によって福島第一原子力発電所から放射能の漏れがゼロとは言い切るには情報が足りていないが故に、さらに農業離れは拍車がかかっています。しかしそんななか、新たに「福島県で農家になろう、農業を始めてみたい。」という方が増えています。なぜ福島県なのだろうか?放射能は怖くないのだろうか?そもそも何故農家に?そんな私たちの疑問に新規就農者の方たちはみんな、一様に、「福島のものは美味しいから!」「会社と違って努力の成果がみられるんだよ!」と仰います。正面から第一次産業に自ら立ち向かう方たちから、食べ物を育てるという楽しさを教わりました。いまや地方自治体だけでなく、県や国をあげて新規就農者へのサポートが始まっています。第一次産業への興味が全国的に注がれる時代が来ているのかもしれません。
高島友梨
損害賠償
福島第一原発事故がもたらした放射能汚染による農作物の出荷停止や、風評被害による売り上げの減少など、農家の方々は経済的なロスに直面しており、前年の売り上げとの差額分を東京電力に損害賠償請求しています。JAや農民連などの組織を通す場合や、個人で請求する場合など、方法はいくつかあります。申請した金額が全て戻らない、個人と組織では力の差があるため申請が通らない、多大なる量の資料の作成をするのが煩わしい、等、損害賠償のシステムは問題視されることが多々あります。「賠償請求はいつまで続くのかわからない。」という不安の声や、「単価が下回るのは数量が多いからだ、って言える様な時期が早く来れば良いんですけどね。」という希望の声を皆様にお伝えしていきたいです。
古川美由紀
お客様との関係
福島の農家の方々の多くが口を揃えた話して頂いたのは、お客様との関係が自分の農業をする上でのやりがいにおいていかにも重要だということ。この見解は、東日本大震災が起きたことによる原発事故があることで、ますます強まったと言えるでしょう。風評被害により農産物が売れないことに対して多くの方は、自分のお客様との関係があることによって、売り上げの回復ができたということをインタビューで語っていました。生産者と消費者の絆は、単に人と人との絆であり、それが福島の農家の多くが今もなお福島で農業をする上での原動力になっているのかもしれません。
佐藤シャミーナ
後継者問題
全国的に囁かれる農業後継者不足。農業で生活していくことが苦しい時代というのが背景にありますが、福島ではそれに加えて原発事故、風評被害という深刻な問題により、農業離れが加速しています。かつては根付いていた、「農家の息子は農家を継ぐのが当たり前」という風習も、現代では薄れてきています。私たちが伺ったお話の中でも、「自分の息子には苦労をさせたくない」、「たくさんの選択肢から自分で選ぶ自由を与えたい」という声が目立ちました。しかしその中でも、親御さんの働く姿を見て自ら継ぐことを決意された若い農家の方、息子さんが継いでくれるならば良い状態の土を残したいと目を輝かせるお父様。また、福島の農業全体を盛り上げようと、次の世代を育てるための活動を精力的に行っていらっしゃる20代30代の若い農家の方々。そのような方々にたくさんお会いすることができました。「後継者不足で農業が衰退している」とだけ簡単に言われがちですが、その背景にある様々な人の思い、熱意、努力を忘れてはいけないと感じました。
後藤まり子